拳闘士の休息 (河出文庫 シ 7-1) 価格: 945円 レビュー評価:4.5 レビュー数:2 初めて読む作家の短編集。たまたま手にとってちょこっと読んだら止まらなくなってしまった。
ベトナム戦争従軍の経験はないらしいが、ベトナム戦争を題材にした表題作はそのすさまじい戦場の描写がスゴい。
ボクシングとセックスとてんかん、死といったテーマを描いた暴力的な小説だが、ニーチェやショーペンハウエルといった哲学者の言葉も散りばめられていたりする不思議に知性を感じさせる小説だ。
ほかの作品も読んでみたいが、まとまった翻訳はこれ一冊のようだ。
とりあえず、私の中では今年度ベストの翻訳短編集。 |
ティファニーで朝食を (新潮文庫) 価格: 580円 レビュー評価:4.0 レビュー数:8 映画ではヒロインのホリーはオードリー・ヘップバーンが演じているが、
これは原作に出てくるホリーとは別物と考えていいだろう。
明らかに印象が違う。
と同時に、今再び映画化されるとしたら誰ならホリーを演じることができるだろうかと考えてしまう。
翻訳者の村上春樹は解説において、カポーティの文体を絶賛していたが、
今度は原文で読んだみたいと思った。 |
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レキシントンの幽霊 (文春文庫) 価格: 480円 レビュー評価:4.0 レビュー数:40 今や国民的、いや世界的人気作家(?!)としてまつられている春樹さんだが、2000年以前に書かれた、こんな雰囲気の作品群が一番好きだったかもしれない。すでにアメリカ在住だったためか、翻訳物の香りがする表題作。そして、哀しみが横溢する「トニー滝谷」、夢でうなされそうな「七番目の男」…… 。最新の自選短編集のタイトルは、「めくらやなぎと
眠る女」らしいが、この短編集に収録されている「めくらやなぎと、眠る女」とは違うバージョンなのだろうか。再読して、ほんの少しずれた世界の奥深くへ、真摯に切り込んでいこうとする姿勢を思い出した。
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ランゲルハンス島の午後 (新潮文庫) 価格: 620円 レビュー評価:4.5 レビュー数:8 1984-86年(村上氏35-37歳)に雑誌「クラッシィ」に掲載された25のエッセイ。
特に気付きを与えてくれるというのでもなく、村上春樹的なユニークな視点で捉えた事象が淡々とまったり&ゆるりとしたかわいらしい安西水丸さんの絵の伴奏付きで描かれてます。
「ゆるい時間を過ごしたいなぁ」なんて時にはお薦めできると思います。でも、自分がこの先果していつ読み返す時が来るのか、、、 |
使いみちのない風景 (中公文庫) 価格: 540円 レビュー評価:4.0 レビュー数:12 3編のショート・エッセイと写真。「使いみちのない風景」はそれ自体には意味がないが、我々の精神の奥底にじっと潜んでいる原初的な風景に結びついていて、意識の深層にあるものを覚醒させ揺り動かそうとする、という。そんな風景がきっかけでできたのが、『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』と『ノルウェイの森』だという。短い文章は洗練されている。どこか外国の屋外で読みたい。 |
ノルウェイの森〈下〉 価格: 1,365円 レビュー評価:4.0 レビュー数:39 この作品には、心療病棟、自殺、失踪とういくらでも暗く深刻にすることができる要素があふれているのだが、読後は重々しさがなく、喪失の切なさのみが残った。結局、主人公の周りの自殺していった人々、その死に直面した時の苦しみも、振り返れば「過去」でしかない、そして過去の記憶は望もうと望まないと誰もが喪失していくということだと思う。 青春のはかなさや切なさを描いた傑作である。 また、派手な仕掛けはないのに、この作品の舞台の1970年前後の熱さとけだるさが混沌としている雰囲気を読者に感じさせることに、村上氏の技巧の高さがある。 |
ロング・グッドバイ 価格: 2,000円 レビュー評価:4.0 レビュー数:47 50年代に書かれ、ながらく『長いお別れ』として知られたハードボイルド小説の最高峰と言われてるレイモンド・チャンドラーの作品です。昨年、村上春樹氏による新訳本が出版され実は昨年初めて読みました。これは、はっきりいってすごいです。原作の雰囲気に忠実な村上訳もさることながら、オリジナルのミステリの面白さ、語り部としてのフィリップ・マーロウの圧倒的な存在感にあっという間に引き込まれ、読み始めたら止まらなくなってしまいました。忘れたころに読み返してますがそれでもまた面白いです。LAでのある殺人事件がきっかけで、重層的に織り成す人間関係の描写から、幾重にも仕込まれたミステリの謎解きも見事です。しかし、も |
キャッチャー・イン・ザ・ライ 価格: 1,680円 レビュー評価: 4.0 レビュー数:230 1951年に『ライ麦畑でつかまえて』で登場してからというもの、ホールデン・コールフィールドは「反抗的な若者」の代名詞となってきた。ホールデン少年の物語は、彼が16歳のときにプレップ・スクールを放校された直後の生活を描き出したものだが、そのスラングに満ちた語り口は今日でも鋭い切れ味をもっており、ゆえにこの小説が今なお禁書リストに名を連ねることにもつながっている。物語は次の一節で語りだされる。 ――もし君が本当に僕の話を聞きたいんだったら、おそらく君が最初に知りたいのは、僕がどこで生まれただとか、しみったれた幼年時代がどんなものだったかとか、僕が生まれる前に両親はどんな仕事をしていたかなんて |
物語論で読む村上春樹と宮崎駿 ――構造しかない日本 (角川oneテーマ21) 価格: 740円 レビュー評価:4.0 レビュー数:8 本書を読むと物語作りの裏側を知ってしまい、折角面白く読んでいた本がつまらないもの思えてしまうのではないかと心配になる方は、少なからずいらっしゃると思います。その意味で本書はパンドラの箱とも言えるものでしょう。小説の基本構造を知ることは、物語を作る設計図によって物語づくりを一般化する役目と、読み手のレベルを上げる役割があります。特に後者につきましては、ただ設計図をなぞった駄作を選別するのに役立ちます。読者の目が厳しくなればそれだけ供給側もレベルアップせざるを得ず、無駄な出版物が減るというものです。
しかしながら本書を読むにあったっては、それなりの読書量と清濁併せ呑 |
ノルウェイの森〈上〉 価格: 1,365円 レビュー評価:4.5 レビュー数:128 昔売れていた頃、まだ小説なんてそんなに読んだことも無かった頃に買ったノルウェイの森。
でも結局上巻の途中で挫折してしまった。
大学生でも無ければ恋の1つもしたことのなかった僕には何一つリアルに響いてこなかったからだと思う。
あれから十何年が過ぎて、自分でも考えていなかったような人生を送り、恋をし、
来月、6年間同棲した彼女と別れることになった。
それは僕にとってどこまでも果てしない喪失感であり、僕は何かに取り付かれるように映画や音楽、
とにかく感傷に浸れるものを探していた。
雑貨屋で積まれていたノルウェイの森 |
さよなら、愛しい人 価格: 1,785円 レビュー評価:4.5 レビュー数:13 村上春樹が「The Long Goodbye」に続いて「Farewell, My Lovely」を翻訳した。熱烈なチャンドラーファンの私も早速読んだ。日本人のほとんどのチャンドラーファンは英語に堪能な人を除けば、清水俊二の翻訳を通じてその作品に親しんでいると思う。私も例外ではない。つまりこの村上訳も清水訳と比較される運命にある。結論から言うと村上訳は清水訳に惜敗である。
まずタイトルの「Farewell, My Lovely」を「さらば愛しき女よ」と訳した清水訳は、ちょっとマヌケな村上訳のタイトルと比べてみて、あらためて凄いセンスであることが今になってよく分かっ |